三、草・木などの名前にみられる方言(8) きみ (とうもろこし)『秋田方言』(昭和四年刊)では次のようです。
五例があげられでいます。(平鹿)の用例は「ときび」で示されています。現代は「きみ」が使われているのではないでしょうか。 まず、「きび」「きんみ」の類があげられ、それと、「とっきび」のように、「とっ」「と」の音を語のあたまにつけた類とがみられます。 「とっ」と「と」は、「とうもろこし」の「とう」からきたものでしょう。「とうもろこし」の「とう」が縮まって、「とっ」となり、さらに縮まって「と」となったものと思われます。 それと、「きび」と「きんみ」「きみ」の語の終わりの子音 b と、m の音変化がみられますが、これはあとに考察します。 ところで、もともとの意の「トウモロコシ」についておもしろい解説があるので、『薬草カラー図鑑』[トウモロコシ(イネ科)]の項をみてみます。
なるほどとうなずけます。外国といえば、すなわち「唐」(中国)でしかなかった時代のせいで、そこからの誤りというのにはうなずかされます。「南蛮黍」(なんばんきび)が正確な呼び名といえましょう。 しかし、「とうもろこし」と「とうきび」とはちがいがあるのではないでしょうか。『秋田方言辞典』はさすがに明解です。その要約は次のようになります。
「唐黍」にも、また、「玉蜀黍」にも、それなりの名付けのいわれがあり、歴史のあることがわかります。 「黍」そのものについても『広辞苑』では次のように解説しています。
「黍」と「唐黍」とは、まったくちがうイネ科の作物だということがわかります。 ここで、もう一度、『秋田方言』にもどるのですが、そこに取りあげられている「ときび」「とっきみ」類は、これまでいろいろみてきた「唐黍」なのか、「玉蜀黍」なのか、はっきりしないようにみます。昭和四年の『秋田方言』にあげられている、「ときび」「とっきみ」は、かなり古い時代からの「唐黍」としての外来品種名そのものでないかと考えられるのですが、どうでしょうか。「とうもろこし」の名で呼ばれるものは、その後のことではないでしょうか。これは宿題になってしまいます。 さて、残されたのは、「きび」と「きみ」。語の終わりの子音「b」と「m」についてです。 さきの『広辞苑』での「きび」についての解説のはじめにあった≪黍(きび)は[キミの転]≫としているのには首をかしげます。キミからキビに音変化したというのですが、そうでしょうか。逆に、「きび」から「キミ」へ音変化をとったとするならわかるのですが。 方言での音変化の例として、子音 b が m に音変化をとる例がいくつかあります。子音 b はくちびるのはれつ音ですが、おなじくちびるの鼻音 m への移行という変化をとってしまいます。 <荼毘(だび)> が、 <だみ> になってしまうのは、その代表的な例といえます。 もともとは「きび」(黍)だったものが、音変化をうけて現代では、方言「きみ」として発音されているのは、その例証といえましょう。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Copyright (C) since 2005, "riok.net" all rights reserved |