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三、草・木などの名前にみられる方言

(1) はなしょもぎ(はなひりのき)

 

「ハナヒリノキ」という正式の名を知ったのは、『薬草カラー図鑑』のおかげです。

小さいころから、わたしは、「ハナショモギ」の名で知っていましたから、これが方言であることまで、ずうっと知らないでいたわけです。この「ハナショモギ」にまつわる小さいころの思い出には、あとで触れてみることにします。

まず、『薬草カラー図鑑』(著・井沢一男)では次のようです。

ハナヒリノキ (ツツジ科)
本州中部以北より北海道に自生。葉の乾燥した粉末が鼻の穴に入ると、くしゃみが出る。はなひりはくしゃみのことで、クシャミノキ、クサメノキの方言もある。仙台ではくしゃみをアクショと言うので、この地方ではアクショノキと呼んでいる。

また、この葉や小枝を便所のうじ虫を殺すのに用いるので、ムシゴロシ、ウジコロシの方言もある。

江戸本草学者と漢名  明代(みんだい)の学者李時珍(りじちん)の「本草綱目(ほんぞうこうもく)」(1590)全52卷が江戸初期にわが国に紹介され、薬物書の聖典のようになった。たとえばハナヒリノキを言うとき、「本草綱目」のどの細目に該当するのか、まず問題になる。しかし、ハナヒリノキは中国には産しないので「本草綱目」にはない。…(中略)…「本草細目啓蒙」(1803)は、……「小さい樹で葉はユスラウメのようで狭く、しわが多い。4月に小黄花を開く。有毒」とあるところから、小野蘭山はハナヒリノキを木藜蘆(もくりろ)とした。しかし、木藜蘆はハナヒリノキでもハマユウでもない。漢名至上主義の時代の誤りである。

採取時期と調整法 花の時期から秋の初めころが最も効力が強いので、10月ごろに採取するとよい。効能の主体は葉だが、小枝がついてもよく、日干しにして厚地の布袋に入れてもみ砕く。その際、粉が鼻に入らないようにすること。 * <(薬効と用い方)> は略。

わたしらの小さかったころは戦時中。夏だったか、秋だったか、もう記憶は遠く、薄くなってしまったのですが、父が、上半身裸一貫、顔中に手拭をまいて(その格好がなんともおかしかった)、山から採ってきた葉っぱをウスにいれ、叩いて粉末状ににするのだった。それが、便壷にまかれるハナショモギだったのです。

粉末が鼻に入らない用心のための、父のおかしな扮装が忘れられない。わたしらも鼻をおさえて遠巻きの見物。このなんともおかしな光景が、ハナショモギを忘れさせないのです。あの強い匂いといっしょに。

いまにして思うのですが、このハナショモギの葉っぱを山から採ってきたのは、祖母だったのではないかということ。わたしらは、バッパと祖母のことをいってたものでしたが、バッパはよく山に行ってたからです。春のゼンマイ採り、わらび採りからはじまって、よく山にいってたバッパでしたから、ハナショモギ採りもバッパだったにちがいないかも知れません。それに、バッパはもと山内村生まれ、大沢は羽根山。山との縁が深かったものでしょう。

『山内村史』 <下巻> の「植物」の項に、いかにも山内らしいハナショモギの記述があります。

<ツツジ科> 
…ハナヒリノキ(ハナショモギ)は各地に多く、古くからの唯一の農薬で葉を乾燥粉末として殺虫剤に、生の茎葉を刻み便所のうじ殺しに使われた。

茎葉処理に違いはあるとしても、「古くからの唯一の農薬」でもあったことがわかります。

山といえば、山の集落・黒沢でも、
「ここらでも、このハナショモギの粉末を畑の隅に撤いて、虫よけにしたものだ」
と聞いたことがあったもの。そこでもハナショモギにあえて、懷かしかったものです。


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