横手方言散歩サイトロゴ

三、草・木などの名前にみられる方言

(5) おんこ(いちい/一位)

小さかった頃、隣の家の前庭に「おんこ」の木があり、太い幹と枝なので、ぶら下がったり上ったりなどして、よく遊んだ記憶があります。赤い小さな実がなるので、それが目当ての遊びだったのかも知れません。日常、いつも腹ぺこのわたしらには、実がなれば、まったく、“おんの字”の「おんこ」だったわけです。

「イチイはイチイ科の常緑高木。高さ約15メートルになる。葉は針葉で羽状に密生。雌雄異種。実は秋熟し、赤い多肉質で甘い。材は淡褐色で建築、家具、彫刻財とする。昔、この木から笏(しゃく)を作ったことから、位階の一位にちなみ木の中で第一位のものとして名付けられたという。」
(『秋田方言辞典』より)

では、どうして、「おんこ」という方言名があるのか、つづいて『同書』の解説がつづきます。

「おんこ。アイヌ語 onko から。植物名 <いちい> の異名。“蝦夷に をんこ と云木多し。をんこは松前の方言にして夷言には らるまに といふ。…”」

とあって、アイヌ語オンコ(onko)と、別にラルマニ(larma-ni)ともいうとあります。

わたしらがぶら下がって遊んだ木がオンコ。いつも腹ぺこのわたしらに天与の赤い実をくれたオンコ。それが、アイヌ語だったというおどろき。いまにして思うと、アイヌ語にぶら下がり、アイヌ語を腹に入れていたともいえそうです。小さいころの思い出の中の大きな木が、アイヌ語オンコの木だったとは。

少しばかり広い屋敷が持てるようになったら、「おんこ」の木を植えてみたいと思うようになったもの。はるかな遠い時空の果てから、どっしりとした木の風格、そのうえあったかい思い出を運んでくれるように思われてなりません。

この「おんこ」、方言といってしまうより、もとアイヌ語オンコとして、胸に刻みこんでおきたいものです。「オンコ」のために、アイヌのために。


外部リンク

単語検索


ひらがな/カナ:
区別しない
区別する