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三、草・木などの名前にみられる方言

(3) すかんぽ (すいば)

♪ 土手のすかんぽジャワ更紗(さらさ)…
と、よく歌ったもの。よくのびた「すかんぽ」は、どこか南国の衣装を連想させ、歌詞もそこからのエキゾチックな味わいを感じさせます。 葉っぱを口にすると、酸っぱい。そこからの≪すいば≫(酸葉)なのでしょう。茎は空ろで折ると音を立てます。「すかんぽ」の「ぽ」の音はそのひびく音からのものでしょうか。

『薬草カラー図鑑』の≪すいば≫の項では、

{ …名前の由来 スイバに漢名の酸葉をあてたのは、林道春(はやしどうしゅん)の「多識編」(1631)。このときの和名はスイドウグサやスシと呼んでいた。「大和本草(やまとほんぞう)」(1718)では酢模をスイバと読ませ、「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)」(1713)では俗にスカンポと呼ぶと述べている。春先の茎葉をかむと、酸味があるので、すっぱい葉の意からの和名 } (…略…)

とあります。江戸時代、すでにスカンポと呼ばれていたというのですから、これは全国方言というか、全国共通語と言えそうにもみられます。

『秋田方言』では次のようです。

すかすか(北)すかんぽ。
すかん(平)すかな。
すかんこ(市・平)かたばみ。
すかんぽ(平)かたばみ(酸漿)。
すけすけ(雄)かたばみ。

全県五例のみ。横手・平鹿では三例。横手・平鹿の「すかん」は≪すかな≫を指すとしていますが、漢名が≪酸模(すいば)≫、≪酸菜(すかな)≫は和名かと思われます。つまり、「すかんぽ」ということ。でも、ほかの「すかんこ」「すかんぽ」の指す植物名をみな、 <かたばみ> (酸漿)にあてているのはどうしたことでしょう。これはくせ者です。

そこで、『薬草カラー図鑑』でその <かたばみ> の正体をさぐってみたいと思います。

カタバミ(カタバミ科) 生薬名 <酢漿草(さくしょうそう)>
・ 名前の由来 葉の一方が欠けているので、 <カタバミ> の名になったという。またの名を <スイモノグサ> というのは全草に酸味があるから。全国に方言が多いが、中でもゼニミガキ、ミガキグサは、この生の草でしんちゅうや銭を磨くと、きれいになることからついた。これはシュウ酸を含んでいるからである。

「すかんこ」「すかんぽ」は、この <かたばみ> とはまったく別の植物といえましょう。『秋田放言辞典』は、また別な考察をみせてくれています(要点のみ)。

*すかんこ・すかんぽ
(1)すいば(酸葉)
…スカンポはスイバの全国共通語(『日方』)。
(2)いたどり(虎杖)
(3)かたばみ(酢漿草)

『同書』の考察はなんともくわしい。さすがです。要約の要約ということになるのですが、考察(1)の≪すかんぽ≫は、“スイバの全国共通語”ということですから、ほっと胸なでおろします。(2)は、“いたどり”。 用例、“酒ほがひ”(吉井勇)の“わかうど”「すかんぽの茎の味こそ忘られね いとけなき日のもののかなしみ」。これは、“いたどり”でなくてはなりません。“すかんぽ”が泣くでしょう。

ですから、その土地によって、方言での呼び方が違うということでしょう。

そこで、土地によって呼び方が違うのだからこそ、横手地方では、やっぱし、“すかんぽ”は「すいば」を指し、“いたどり” “かたばみ”などを指したりはしない、と言い切れそうに思うのですが、どうでしょう。

ところで、酸っばいことを方言では「スカイ」ともいうのですが、「すかんぽ」の語の終わりに「…坊」をつけた、「すかん坊」から、「すかんぽ」に転じたともいわれます。日がな一日、野に土手に遊びほうけた昔の子どもたちにとって、一番の遊び相手として「坊」のことばが似合うといえましょう。「すかん坊」から「すかんぽ」に転じたものかも知れません。そこは宿題にして、もう一度、歌いたくなります。

♪ 土手のすかんぽ、ジャワ更紗…

「すかんぽ」は土手がよく似合います。 <カタバミ> では小さ過ぎて歌にはなりません。「すかんぽ」は、やはりジャワ更紗がよく似合います。


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