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三、草・木などの名前にみられる方言

(2) どがらんぽ (いたどり/虎杖)

あの戦時中、代用タバコの原料の葉となったのがこれ。≪どがらんぽ≫を知らない人はいないでしょう。植物名の「いたどり」を漢字で書くと <虎杖> をあてます。≪痛取≫からきたとする説もあって、生の若葉の薬効をいうようです。横手地方ではイタドリとはあまり言わず、もっぱら、だれでも≪どがらんぽ≫です。なんとも親しげで、たのしいひびきをもつ方言といえましょう。

『秋田方言』(昭和四年刊)に“横手・平鹿″の例として次のようにとりあげられています。

・どから (平) いたどり。
・どがら (平) いたどり。
・どがからぽ (平) いたどり。
・どがら(平・雄) いたどり。

『同書』には、“仙北”での用例として <でんすけ>(いたどり)をあげていますし、“由利”の例として <さしどり・さすどり>(いたどり)もあげているようです。横手・平鹿・雄勝での例としていろいろな言い方で示されていますが、ふつうの言い方として≪どがらんぽ≫が一般的なようです。県南に集中しているというのもおもしろいです。

天下の『広辞苑』では次のようです(要点のみ)。

・……若芽を食用とし、また根は「虎杖根」として利尿・通経・健胃剤とする。古名は「たぢひ」「さいたづま」とも。

古名を「たぢひ」と言ったとある説をもとにして、『秋田方言辞典』では≪さしどり≫の項で、次のように考察しています。

〔考〕 サシドリはイタドリの古名「たちひ」の転訛サシと、イタドリとの混交語であろう。[サシドリ→サセドリ→ササドリ]と転ずる一方、[サシドリ→サスドリ→サソドリ]、[サシドリ→サセドリ→サヒドリ]と転じたもの。サシドリは[ドリ]の[ド]が鼻清音化を経て、鼻音を失うに至ったものであろう。

学究的に深い考察といえましょう。このほかに、由利地方では「サシボ」(サシポとも)があります。『同書』の≪さしぼこ≫での考察はつづきます。

〔考〕 ……a、ボコは「うぶこ〔産子〕(生まれたての子、あかご) *日葡辞書「ウブコ」−の転化に基づく語で赤ん坊の意。イタドリの若芽をサシのボッコと見立てた名称であろうか。コを略してサシボ、さらに略して*サシともいう。…(略)…

「サシドリ」についての記述がつづくのですが、横手地方でいう「どがらんぽ」は残念ながらとりあげられていません。『秋田方言』では横手・平鹿の方言として「どがらんぽ」はとりあげられていたのでしたが。

でも、それはそれとして、春先、「どがらんぽ」の萌え出たばかりの若芽を摘んで、酢味噌和えにして食べる醍醐味は格別。若芽を摘むときのぬらめきが、春を実感させてくれます。口中にひろがる春の食感は、まさに“おらが春”です。

この「どがらんぽ」の名付けについては不明です。解明はされていません。ですが、いかにものびのびした楽しいひびきには感心してしまうのです。≪いたどり≫は古くから漢字 <虎杖> をあてるのですが、実際太い茎のよく乾燥したものは丈夫で、山歩き用のりっぱな杖になります。 丈夫さからの名付けかも知れません。生のときは、ふとい茎は空ろになっていて、折ると音を立てます。そのよくひびく大きな音からの≪ドガラン ポン≫の名付けとばかり思ってきたものです。擬音語といえましょう。なんともたのしい名付けで、散歩道にはうってつけのひびきといえましょう。


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