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四、古語をもとにした方言

(9) しねぁ

古語辞典(角川版)では次のようです。

しな・ふ  [撓ふ] シナ(ノ)ウ
しなやかに曲がる。
しなやかに垂れる。
「真木の葉の しなふ 勢(せ)の山」[万3−291]
逆らわないで、ものに従う。

①の用例に万葉の古歌。横手の方言では「しなる」のかたちをとりますが、ほかに「しねぁ」のかたちもあります。どれも「しなふ」のかたちからの転訛かと思われるのですがどうでしょうか。

ただ、『秋田方言』では、表記のしかたが少し違ったかたちで示されているようです。

すなる(平) しなふ。
「竹がすなる。」
しない(雄)しなやかで堅い。
「この沢庵漬 しなくて噛めない。」

はじめの「すなる」は、「しなる」のもうひとつのかたちといえます。 「す」であったり、「し」であったり、東北方言特有の si ・ su の発音を示しているといえます。ふたつめの「しない」「しなくて」でも、どちらにも語中の「…ナイ」のかたちの音は、「…æ ェァ」の音変化をとるので、「シネァ」となるのがふつうです。干しイカを口に入れてしゃぶるときの「このイカ、しねぁ」のあの実感そのものです。

『雄勝地方の方言集』では次のようです。

しねやねばり強い。筆者の祖母は長命で、しねや婆と呼ばれていた。

この「しねや」の表記も、実際の発音は「しねぁ」に近いのでないかと思われます。ただ、この「しねや」の意味が、「ねばり強い」となっていて古語「しなう」の意の転義であることがわかります。いうなれば、「しなり強い」ということになります。

『秋田方言辞典』では次のようです(要点のみ)。

しない
柔軟で強い。弾力性があってかみ切りにくい。
強靭である。持久力がある。ねばり強い。しぶとい。
勝負事などに負けそうで負けない。

(考)……* 書言字考節用集「颯纏、シナヤカ・シナウ」 <『岩波』>−などの語根「しな(撓)」を語幹として形容詞化したのが、方言の「しない(靭)」[形]である。①が原義、②③はその転義。
……−シナイから[シネァ→シネェ→シネ]と転ずる一方、n の長音化からンが入って[シンネァ→シンネ]と転じたもの。

「シネァ」は、古語「しなう(撓う)」をもとにした方言ということができましょう。なお、『同書』では、「しない」の項のほかにも、「しなる・しならかす」の項をあげています。それに「しなりづよい」とつづくのですから語をどこまでも追う姿勢にはおどろかされます。くわしくは『同書』を御覧ください。


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