四、古語をもとにした方言
(4) もぞ
『秋田方言』では「もんぞ」のかたちで示され、意味も <寝ごと> と平明。 でも、横手では、「もんぞ」のかたちのほかに、「もぞ」ともはっきりいいます。それに <寝ごと> だけではない、<現実ばなれした思い・考え> の意でも使われるようです。 まず、古語辞典では、
○ | まう・さう モウゾウ [妄想](仏教語) |
| ただしくない考え。迷った考え。 「所願、皆妄想なり」[「徒然二四一」] |
「まうざう」は古い表記のしかたで、「モウゾウ」と読み、しかも仏教語からの語としています。 『秋田方言辞典』では、さすがにくわしい解説です(ここでは要点のみ)。
○ | もぞ |
| (1) | 夢想。空想。 |
| (2) | うわごと。病気で熱の高いときなどに無意識のうちに口走る言葉。 |
| (3) | 寝言。眠っている間に無意識に言う言葉。 |
| (4) | たわごと。 |
| (5) | 無我夢中。
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| …(考) もうそう[妄想](古くは「もうぞう」) |
| ① | 仏語。とらわれの心によって真実でないものを真実であると、誤って意識すること。また、そのような迷った考え。 |
| ② | 転じて、ありえないことをみだりに想像すること。みだらな考えにふけること。空想。夢想。 |
| − | 方言は、②に基づくもので、(1)が原義で、(2)(3)(4)(5)が転義。「もうぞう」から[モンゾー→モンゾ→モンジョ・モンジョ]と転じたもの。…(略)… |
『同書』の用例のなかに[* 真如歓「無名の睡さめて、妄想(マウザウ)の夢停りぬ」](平安中期)があって、「もぞ」のもともとのかたちは古語「まうざう(モウゾウ)」であることがわかります。「もぞ」も、出身を古語とする方言のひとつといえます。
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