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四、古語をもとにした方言

(1) ひとがだげ

 

『秋田方言』(昭和四年刊)には、この語は採録されていません。
『古語辞典』(「角川」版)では次のようです。

かた・け (片食)
二食(近世、食事ハ朝夕ノ二度)のうちの片食。
食事の度数を数える語。…食。

「かたけ」は古語であることがわかります。この「かたけ」のもともとの意は、辞書での ① <朝夕二度の(食事の)うちの片方> を指していたのが、②の <食事の度数を数える> 意への転義のあることも示しています。

横手での方言「ひとがだげ」は、「かたけ」のあたまに「ひと(つ)」(数詞)をおくことで、古語辞典でいう②の意にあたります。とくに語のあたまに「ひと(つ)」がつくことで、<一回分> の意をつよめます。 数詞「ひと(つ)」のあとに、「かたけ」をつなぐ場合、語中の「か(k)・た(t)・け(k)」の音は、法則的に「が(g)・だ(d)・ げ(g)」と濁音化をとります。もちろん、「ひとがだぎ」というときもあるようです。 『広辞苑』ではどうでしょうか。

ひと・かたけ (一片食)   ・ 一度の食事。

「かたけ(片食)」については古語辞典とおなじ説明。そのうえにていねいに「ひとかたけ」をとりあげています。

横手での方言「ひとがだげ」は、古語「かたけ」をもとにした語であったといえましょう。つまり、出身を古語とする方言のひとつといえるわけです。しかし、これにはもう少し考察が必要なようです。そこで、『秋田方言辞典』の力を借りることになります。くわしい解説ですので、ここでは要点を記してみることにします。

ひとかたけ・ふとかたけ ・一回の食事。一食。一飯。
・ ヒトカタゲ (北)
・ ヒトガタケ (南)
・ ヒトガダケ (仙)
・ ヒトガタゲ (由)
・ ヒトガダゲ (鹿)
・ ヒトカタキ (山)
・ ヒトカタギ (北)
・ ヒトカダギ (山)
・ ヒトガダキ (平)
・ ヒトガタギ (鹿・山)
・ フトカダゲ (北)
・ フトガダゲ (南)
・ フトガダギ (山)
・ シトガダギ (由)
…(考) かたけ[片食] 朝夕二食のうち、一回の食事。
江戸時代、朝夕二度の食事が普通であったころ、このことばが生じた。三食の時代になっても一食の意味で用いられたもの。かたき。

…ひとかたけ[一片食] (「ひとかたげ」「ひとかたき」とも) 江戸語。 一回の食事。

--カタケのケ[食]は食物、食事の意。笥(け)(容器。特に食器)と同源。笥(け)に盛る物の意。(『大言海』)朝食・昼食・夕食は古くは アサケ・ヒルケ・ユウケ。後、連濁によって アサゲ・ヒルゲ・ユウゲとなったもの。[ヒトガタゲ→フトガダゲ→フトガダギ]と転ずる一方、[ヒトガダゲ→シトガタゲ]と転じたもの。…。

さきに、<「ひとがだげ」は、古語「かたけ」をもとにした方言> としたのでしたが、『秋田方言辞典』はそれをとっていません。[(「ひとかたげ」「ひとかたき」とも)江戸語。]とし、古語ということを退けているのです。『同書』は文献資料をていねいにあさり、<この語は、この資料でつかわれ> ていることをよりどころに、[江戸語]なら[江戸語]としています。ふかい考察の前提がここにあるのです。用例に示されている資料文献をあらためてみてみると、「ひとかたげ」は確かに「江戸期」であることがわかります。ですから、「ひとかたげ」「ひとかたき」など、江戸語であることをあらためて見直す必要がありましょう。

江戸語である「ひとかたげ」も、「ひとがだげ」のように音変化をみせるものは、方言ということになります。横手地方では、このほかに「ひとがだぎ」もあるようです。語のおわりの「げ」が「ぎ」への音変化を見せるのですが、こうした転訛はほかにもみられ、例えば、「はだげ(畑)」が、「はだぎ」と音変化をとるのと同じです。

「ひとかたけ」の意は、<一度の食事(一片食)> だったのですが、方言「ひとがだげ」では、<一度の…> より、<一回の…> が強調される意への転義があるようにみられます。この転義をうけてさらに、<一 回の食事の量> を意味するようになってきているのでないかと思います。 例えば、「これ、ひとがだげ…」とか「これが、ひとがだげ分…」のようにです。とくに「…分」(量)がつかわれると、よけい、もとの意からの転義がみられるように思われます。どうでしょうか。

おしまいに、おもしろい用例をひとつあげてみます。

ひとがたけ  一回の食事。
まいがたけ  毎度の食事。
(『秋田県南地方の方言集』より)  

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