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四、古語をもとにした方言

(6) まゆう

『秋田方言』では次のようです。

まゆう(平・雄)   弁償す。
「僕の本を無くして、まゆてよこせ」
まよう(鹿・南・河・仙・平・雄・由)  償ふ。
「時計こはしても、まよってやるからよいさ」
どう(市)  つぐなふ(償ふ)。
「君の本をなくしたからまどう。」

横手地方では、「まゆう」「まよう」のかたちのほかに、「まゆえ」(命令形)もよく使われます。しかし、「まどう」のかたちで使われることはありません。この「まどう」を古語辞典でみると次のようです。

まど・ふ  [償ふ]マドウ
  つぐなう。埋め合わせる。弁償する。
(「角川」版)  
まど・ふ  [償ふ]マドウ <近世語>
  つぐなう。埋め合わせをする。弁償する。
(「旺文社」版)  

方言「まどう」のもともとのかたちは「まどふ(まどう)」だったことがわかります。辞書のひとつには、<近世語> とみえます。用例に[「これがお気に入らずば、壱両の銀子(ぎんす)は私がまどひます」(浮・一代女・西鶴)]が出ていて、江戸前期の浮世絵草紙の作者名がみえます。古語辞典は、古代・中世・近世あたりの語を集めたとしていますから、この「まどう」も古語といえるものです。

方言「まよう」「まゆう」のもともとのかたちは、「まどう」のようです。「まどう」から、「まよう・まゆう」への音変化について、『秋田方言辞典』は次のように解説しています。

まよう [償]つぐなう。弁償する。
つぐなうの意の「まどう(償)」と同形の語の「まどう(惑)」があり、これが「まよう(迷)」の意が近似しているところから、「まよう」につぐなうの意を生じたもの(『日本国語大辞典』)。
…なお、音声上は、「マドウ→マロウ→マヨウ→マユウ」という転訛に伴う転義の現象である…(略)。

明解です。

おしまいに、『広辞苑』をみてみます。

まよ・う マヨフ[迷う・紕う]
(①〜⑨までの意味をあげ、その⑨に「まどう」が)
⑨ (「まどう(償)」との混同によって)償う。弁償する。

『広辞苑』も明解です。

「まよう」「まゆう」にはずいぶん迷わせらせたのですが、似たもの同志のむすびつきなど(たとえ混同だとしても)、時代を生ききっていくことばの力には驚かされるばかりです。


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