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二、身体部位にみられる方言

(7) のどすンつこ・のどちんこ

『秋田方言』(昭和四年刊)では次のようです。

どしずこ(平)懸壅垂(けんようすい)。
どすちこ(南・市)懸壅垂。

このふたつの方言の意味を「懸壅垂」としています。むずかしい語をならべていますが、「口蓋垂(こうがいすい)」のことです。『広辞苑』の説明では次のようです。

口蓋垂 こうがいすい
咽喉の上部から下垂する円筒形の軟性突起。発音器官の一つで、上下に運動して呼気の流れを決める。懸壅垂(けんようすい)。 のどびこ。 のどちんこ。
→(喉彦) 口蓋垂の俗称。  

「口蓋垂」の説明のなかに、「のどびこ」「のどちんこ」がみえます。 「のどびこ」は「喉彦」が原形かとおもわれます。「彦」は男子の美称の意ですから、のどの上部からぶらんと垂れ下がっているその形容を、男の子のシンボルとみたてたものなのかも知れません。「喉彦」は古語なのかと辞書をひいても『古語辞典』にはみえません。『広辞苑』では、「喉彦」は <口蓋垂の俗称> と説明しているだけ。「のどびこ」と「のどちんこ」との関係もつながりも説明されていないのですから、まったくのお手あげです。

問題をもとにもどして、「のどしずこ」の「…しずこ」、また、「のどすちこ」の「…すちこ」のもともとのかたちはなにであったか、ということにあるようです。もう一度、さきの『秋田方言』をさがすと、「すんつこ」そのものが(平鹿)の方言としてあげられているのをみつけました。

すんつこ(平)陰茎(幼児の)

もう一つ、『秋田県南地方の方言集』のなかに

しちこ     幼い男の子の性器。

とあります。「すんつこ」と「しちこ」はともに似たような発音であることがわかります。さきの「しずこ」ともおなじです。

だから、これまでは、これらのもともとのかたちを、「しづ」また、「すず」にもとめたものが多かったようです。

古語の[「垂づ(しず)」→たらす。しだれさせる]に求めたり、また、[「錫(スズ)・鈴(スズ)」→徳利に似た口の細い酒器]とか、一升瓶(ビン)のことをいったとか……としたものだったようですが、さすが『秋田方言辞典』は、「しじ」「すず」をとって明解です。要点をあげてみます。

しじ・しんちこ
…(考) (『日本方言大辞典』による)
(イ) しじ[指似・似指]  陰茎。ふつう小児のものをいう。
(ロ) すず[鈴]  男根。

−「しじ」は中世以来の語。「指似」は当て字。語源は、縮(しじ)んでいるところから、といわれる。「すず(鈴)」は近世語。亀頭を鈴と見立てた名称であろうか、同時に「錫」(酒をつぐ徳利)に掛け、隠語としたであろう。…形が似ていることよりも、酒を注ぐところを放尿に比べて言ったものであろう。

−[シジ・スジ→シンジ]と転ずる一方、鼻清音化により [シジコ→シンチコ→スツコ→シチコ](コは指小辞)と転じたもの。

「喉彦」から「シンチコ」まで、方言散歩も、あわや迷路!かと迷ったのでしたが、ようようもとの「のどしずこ」「のどすちこ」にもどれそうです。やはり、さきの『秋国方言辞典』にもどるということになります。

のどしんちこ・のどしじこ
(考) 口蓋垂の突起を幼児のシンチコ・シジコ(陰茎)に見立てた名称。−俗称の「のどちんぽ」「のどちんこ」も同構成の語。「ちんぽ」「ちんこ」は子供の陰茎。江戸語。「ちんぽこ」とも。

「ちんぽ」「ちんぽこ」を江戸語としています。江戸方言ということでしょうか。それに、「のどちんぽ」「のどちんこ」は俗称、としていますから俗語ということになります。『同書』にしたがえば、「しじ」 「すず」をもとにして見立てた方言のひとつ、ということになるでしょうか。 「ちんぽ」の場合も、「のどちんこ」の場合もともに。


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