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二、身体部位にみられる方言

(6) ほたぼ

「ほっぺた」のことを、「ほたぼ」ともいいます。これは方言でしょうか。

「ほたぼ」は、『秋田方言』(昭和四年刊)にはみえません。

ほっぺ(北)頬。
ほぺた(全県)類。
ほっぺた(鹿・由)頬。

「それぞれの地方で はなすときにだけ つかうことばがあります。 このことばのことを 方言といいます。標準語は日本中どこでも通用しますが、方言はその地方だけでしかつかわれません。標準語とくらべて 方言は すこしずつ 音声がちがっています。」(『日本語5 発音とローマ字』 <東北地方の音声> より)では、方言について子どもにわかりやすいように述べています。

さきの『秋田方言』での、「ほっぺ」などは、「その地方だけでしかつかわれません」にはあてはまらないのではないでしょうか。天下の『広辞苑』ではどうでしょうか。

ほっぺ[頬っぺ](幼児語)ほっぺた。
ほっぺた [頬っぺた]<ホホベタ>の訛。頬のあたり。頬。
ほお・べた[頬辺]頬のあたり。ほっぺた。

「ほっぺ」を幼児語とし、「ほっぺた」は「ホホベタ」の訛(音変化) としています。「ホホベタ」は古語なのかと調べてみても、この語はみえません。思うに、「頬」の形容かと考えてしまうのですが、ふつう、「平べったい」ことからの「ホホベタ」かも知れません。

ただ、「ほぺた」は、「ほっぺた」の促音(つまる音 <っ> )の抜け落ちという音変化をとっている語ですから、広く秋田地方の方言とはいえるでしょう。 ところで、横手地方では、「ほたぼ」「ほたぶ」があります。昭和四年刊の『秋田方言』にみえない理由がわかるような気がしないでもありません。地域差、個人差もあろうかと思われますが、「ほたぼ」「ほたぶ」は、あまり使われなくなってしまった語のひとつといえるのかも知れません。

『秋田方言辞典』によれば、この「ほたぼ」「ほたぶ」がなんともおもしろいです。まず、<平鹿(横手を含む)の方言> として、<ホタボ> <ホタポ> <ホッタ> <ホタ>をあげています。また、広く全国的な分布をみることができます。

<ほーた>岐阜・愛知・鳥取・島根など
<ほーたー>島根岩見
<ほーたっぼ>島根隠岐島
<ほーたぶ>岩手・福島・茨城
<ほーたぶら>茨城・新潟・佐渡・高知
<ほーたぶる>愛媛
<ほーたぶろ>徳島・香川・高知
<ほーたべ>山梨
<ほーたぼ>岐阜・徳島・香川
<ほーたん>富山・石川・静岡・長崎
<ほた>鳥取・島根
<ほたぶ>宮城・山形
<ほたぶら>新潟・熊本
<ほたぶろ>香川
<ほたぼ>島根
<ほったぶ>宮城・山形
<ほったぶら>栃木・鹿児島種子島
<ほったぶろ>栃木
<ほったん>大分

「ほたぼ」「ほたぶ」が、横手をこえて日本のあちこちの地方で、おなじように方言として使われているのをみると、おどろきとともに、なんか親しみの湧くのをおぼえます。

『同書』では、さらに次のようにしめくくっています。

…(考) ほおたぶら[名]  ほお。ほっぺた。
−[ホータンブラ→ホッタブ→ホッタボ→ホタボ→ホッタ→ホタ]と転訛したものであろう。

[頬たぶら]の[たぶら(臀)]はふくらんだ筋肉の部分、「たぶ」は「ら」の脱落で同義語。「尻たぶ」「股たぶ」「耳たぶ」などの「たぶ」。……

−タブラはこのタブと同源で、ラは状態を表す接尾語。−『仙台方言辞典』は、たぶ[名-接尾]を「髱(たぼ)」の転とし、「日本髪の背の側に向かって張り出した部分。転じて、頬タブ・尻タブの如く、やわらかくふくらんだ部分を呼ぶ」としているがどうか。

『同書』では、「頬たぶら」をもともとのかたちとし、「たぶ」は「ら」の脱け落ちとみています。「尻たぶ」「耳たぶ」の例も明解です。「頬たぶら」は古語かと探してみたのですが、古語辞典にはみえず、『広辞苑』でようやく「しり・たぶら」をみつけました。

しり・たぶら[尻臀]「しりたむら」に同じ。
しり・たむら[尻臀]尻の肉の多い部分。しりべた。しりこぶた。

古語辞典にはみえないので、「頬たぶら」を「ほたぶ」「ほたぼ」のもともとのかたちとしたいのですが、古語とは断定しかねます。しかし、古語辞典にはみえないとしても、古い時代の「たぶら」「たむら」をもとにした方言のひとつということでしょうか。


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