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二、身体部位にみられる方言

(3) このげ

『秋田方言』(昭和四年刊)では次のようです。

このげ(全県)眉毛。

全県的に使われていた方言ということがわかります。

「このけ」とは発音せずに、「このげ」とおしまいの <け> を濁音化して発音します。標準語の「眉毛(まゆげ)」とこの場合同じです。

お隣の『岩手西和賀の方言』では次のようです。

このげ眉毛。かおの毛からの転訛だと言われる。

もともとのかたちを「かおの毛」に求めているのですが、古語辞典ではどうでしょうか。

まゆ[眉]上代では「まよ」。まゆげ。
(「角川」)  

もちろん、「このげ」は『古語辞典』にもありません。

「眉」の古い時代のかたち「まよ」を示しているのですが、「眉(の) 毛」とはしていても「顔(の)毛」とは、『古語辞典』ではいっていないようです。すると「このけ」の「こ」は何を意味しているのか、ということになります。

これにはいろいろ説があって、混乱しそうになってしまいますが、『秋田方言辞典』は明解に次のように述べています。

このけ   眉毛。
……(考)
a『杜陵方言考』『仙台方言考』『鹿角方言考』は、「蚕(こ)の毛」として、蛾眉(がび)に相当する語としている。
bまた……「(目の)甲の毛」か、としている。
cなお、「上の毛」の説もある。
dさらに、青森、岩手にカオノケがある。「顔の毛」であろう。

くわしい考察がつづくのですが、「……甲は一般に <表面の堅い部分> の意で、人体では手足の表面をいうことが多いが、まぶたの上部・眼窩の上縁部を <目の甲> とし、「甲の毛」としたものであろうか。しばらく、『仙台方言考』説に従っておく…」としています。

まとめとして、[「コーノケ→コノケ」と転ずる一方、顔の毛の民間語源意識がはたらいて、「コーノケ→カオノケ」と転じたものであろう]  するどい考察でしめくくられます。

『同書』では、さらに、管江真澄集四の『小野のふるさと』(天明五年四月四日・雄勝郡幡野村柳田[現湯沢市内])を引用しています。

「国はいつれならん女の、男にいさなはれて行を、水くむ めわらし、桶を捨て家にはせ入て、あなる女を見よ、かうのけもなし(まゆを顔の毛、又かうの毛といふ)、わかせ聞て、餘所国の人はみな、このけそりぬるといへは、女、あな、さたけなし(恥かしきといふこと也)とかたるを」

さすが真澄です。「…(まゆを顔の毛、また、かう <こう> の毛ともいふ <いう>)」と方言への観察眼がよくはたらいています。真澄説にも、なかなかの考察の深さをみることができるというものです。この紀行文は天明五年(1785)ですから、いまからおよそ220余年前の方言考といえましょう。あらためて、紀行家真澄を見直したところです。


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