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一、くらしの中の方言

(8) ねまる

『秋田方言』では、

ねまる(鹿・河・仙・由)座る。 「ねまる場所がなぐなった」

横手・平鹿の例を示してはいませんが、「ねまる」「ねまれ」などのかたちで使われています。

お隣の『岩手西和賀地方の方言』でも、秋田とは同じですが、いくつかの転義も示しています。

ねまる座るということ。
リンパ腺が腫れることを <“えのご”がねまる> と言う。
家を建てて住みつくこと。

秋田でも岩手でも、「ねまる」ことをともに“座る”の意としているのですが、この意をめぐって、いくつかの説があるようです。 古語辞典(「旺文社」版)では、

ねまる(近世語)
いる。すわる。
寝る。寝そべる。くつろぐ。
「涼しさをわが宿にしてねまるなり」 芭蕉
『おくのほそ道』(尾花沢)  

「いる・すわる」の意のほかに、「寝る・寝そべる・くつろぐ」の意もとりあげられ、秋田での「座る」だけの意でないことが知られます。

とくに用例として示されている、芭意の『おくのほそ道』(山形・尾花沢)での有名な句、「涼しさをわが宿にしてねまるなり」では、いくつかの解釈があるとされているようです。

涼しさをわが宿にしてねまるなり 芭 蕉
[……この句いかにもやれ、やれ、のび、のびの感があって、大の字にでも寝ているという風に読んでいたが、内山一也著「鑑賞奥の細道」を見ると、「『ねまる』には、古来、『寝そべる・楽に寝る』の両意ありとする説と『楽に座る・あぐらをかく』という意で 寝るという意はない、とする説にわかれている。最近では後の説の方が有力である]と書いてある。

この後の説の代表的発言者である山田孝雄の研究によると「ねる」という意味に「ねまる」を用いるのは九州以外にない、ほかは「居る」という意味に用いるので、「ねまる」の“ね”にひっかかって「ねる」と解するのはまちがいだとしているのだそうだ。…]
「見ながら読む芭蕉の旅 奥の細道」より <学研>  

『秋田方言辞典」では、かなりのぺージ数で、くわしい解説になっていますが、ここでは、その要約を次にあげることにします。

「…文学作品では、…特殊な描写上の効果をねらって使用されることが多い。奥の細道の例は…「座る」意とする説もあるが…「寝そべる」とする説が有力である……。

−ネマルは寝るの語根を長マルなどのようにマルを付けて活用させた動詞で、本来、「寝るような動作をする」つまり「低い姿勢になる」のが原義で、それが種々の意に分化したもの。……」

さて、「ねまる」は方言なのかどうか。『前書』では「…用例は既に室町前期に見える」としています。古語辞典では近世語としています。 古語か近世語か迷うところですが、「ねまる」の語のかたちは古い時代そのままです。ただ、意味上に問題がでてくるのですが、この語、古い時代そのまま、やはり方言とはいえないようですが、どうでしょうか。


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