一、くらしの中の方言(2) ぶう・ばれる人の背中に <おんぶ> することを、横手地方の方言では「バレル」といいます。 まず、その「おんぶ」からみていきましょう。『広辞苑』では次のようです。
さらに、
と明解です(②の「おんぶ」は、ここでは省略)。 方言「ブウ」「バレル」のもともとのかたちは「おぶう」のようで、これは古語かと思って、古語辞典をひいてみても、でもありません。ただ、古語が幼児語として現代に生き残っている例は、「おつむてんてん」また、「おちんちん」などにみられるのですが、「おんぶ」もその例かと思われます。でもはっきりしません。 「バレル」の基本のかたちは「ブウ」、「ブエ」は命令のかたち、「ブッタ」は終わったかたちです。「ブワナイ」は否定のかたちです。 方言では、「ブウ/ブエ/ブッタ/ブワナイ」など、語のあたまに「ブ…」の音を置くのですが、それでは「バレル」の「バ」はどうなのでしょうか。ほかの語は、みな「ブ」の音を頭にしているのに、「バレル」だけは「ブ」でなしに、「バ」というのはどうしたことでしょう。 その秘密を解きあかしてくれるのが、次の表です。
この表は、『日本語文法・形態論』第2部形態論 6章動詞(1) 鈴木重幸著(むぎ書房刊) の292頁のテキストをもとに、方言「ブウ」の場合にあてはめてみたものです。
もともとのかたちの「おぶう」が、その≪できるたちば≫のちがいによって、「おぶわれる」「おぶわせる」だったのが、まず、「お」の脱落(ぬけおち)にはじまり、さらに「ブヮ」が「バ」に音変化することで「バレル」「バセル」が生まれたわけです。方言「バレル」も、また「バセル」も音声としての法則をつらぬいての誕生だったことがわかるというものです。 ところで、標準語は「ブウ」「バレル」をもたないのですから、それこそ古いかたちの「おぶわれる」「おぶわせる」をつかうのでしょうか。 あるいは、幼児語「おんぶ」を借りて、「おんぶする」「おんぶさせる」となるのかもしれません。でも、この <…する> <…させる> のかたちは、もとの≪うけみのたちば≫ ≪つかいだてのたちば≫をとらなくなります。もともとの「おぶう」のもつ語のきまりから、抜け落ちてしまうのです。ところが、方言「ブウ」「バレル」は、捨てるものは捨て、音声の法則的な変化をかいくぐって、しかも、もともとの「おぶう」の語のきまりをりっぱに受け継いでいるのです。 |
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