一、くらしの中の方言(4) 出はる・出はた「出る」ということばのほかに、わたしたち横手地方では、「出ハル」「出ハタ」をつかうときがあります。
「で・は(出端)」と名詞のかたちででています。
だいたい、全県にわたってつかわれていた方言であることがわかります。 「で・は」が名詞のかたちだったのに対し、方言「ではる」は動詞のかたちであることがわかります。 「は」が、「ふぁ」に転訛した、「でふぁる」も例示されているのですが、横手平鹿地方でも聞かれない方言ではないでしょう。くちびるをつかって発音するこの「ふぁ」は、古代の発音をいまに残すものといわれます。 ちょっと横道にそれたみたいですが、もう少し横道をいそいでみましょう。『秋田民族語彙辞典』(堀雄次著・無明社刊)におもしろい、「デハレ、デハレ」があるのでご紹介しておきます。
西馬音内は横手と同じように歴史の古い町です。あの有名な「西馬音内盆踊り」を今につたえている町です。その小正月行事に、それが、「デロ、デロ」では、なんかこわい感じになってしまうし、また、「デレ、デレ」でもサマになりません。「デハレ、デハレ」は言い得て妙、まさにぴったしです。 方言「デハレ」は、もともとのかたち、「出端(では」の動詞化かと考えられます。 ところで、「出端(では)」の「端(は)」と同じようにつかわれている、「たちは」(立端)のあることに気づかされます。横手の奥、山内のあちこちの集落の酒盛りのおしまいに交わされる、「タチハ」、また、「タチハン」という盃のやりとりのそれです。「デハ」も「タチハ」も、かなり古い時代のことばではないかとおもわれます。いそいで、「古語辞典』(角川)をひくと、ちゃんと出ています。
「……ハ」はりっぱな古語なのです。山内の奥の集落に古語がちゃんと、りっぱに生きていたのです。そういえば、宮城県の民謡「お立ち酒」は、その「タチハ」の哀歓をうたって有名です。古語「立ち端」(立ちは)から出た「お立ち酒」であることに間違いないでしょう。 それでは、「デハ」はどうなのか、おおいそぎで同じ辞書を引いてみたら、ちゃんとあるのです。
ちゃんとした古語であることがわかります。その古語、「出端(デハ)」をもとにした「デハタ」「デハレ」であるといえます。出身を古語とする方言といえましょう。 辞書の用例にある、「あれあれ、いま月の出端(では)じゃ…」の「では」のもつ、瞬間の意味と感じを、うごきそのものをあらわすことばにしてしまったのが「デハタ」をはじめとした、「デハレ」「デハル」の方言です。この「月の出端」の用例でみるならば、まるで、月そのものがうごきの意志をもつものであるかのように、みてとっているといえるのです。月のうごきに意志をみるということは、月の出に心のやすらぎを待つもの、ひたすらに待つものの意志でもあって、美しいものに心ひかれる、美しさへの喝仰がはたらいているということです。 「月の出端」にかぎらず、わたしらは日常においても、「デハタ」「デハル」を、よくつかっています。「いま、出ハたンしい」とか、「いま、出ハるどこだんしい」などと使うのには、敬語的なニュアンスも加わるのですが、もともとの古語「出端(では)」に通じる、美しいものへひかれる心情があってのことばであることを見直したいものです。 |
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