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一、くらしの中の方言(5) ぼう/ぼ・だす/ぼ・こす「ぼいっこ」は、「鬼ごっこ」といわれる遊びのなかでも、一番ポピュラーな遊びです。じゃんけんで負けたオニが、ほかの仲間を「追う」ことを横手地方では「ボ・ウ」というのですから、そこからの「ボイッコ」でしょうか。 『秋田方言』(昭和四年刊・秋田県学務課編纂)では、「ボイッコ」の <平鹿> を第三編≪語彙≫でまっさきに取りあげています。
≪ぼ≫の項から、「ぼ・う」に関係したものを拾ったもの。全県にわたっての「ぼ・う」について、「追ふ(う)」を意味づけしています。 「お・う」の語頭の≪o≫、「ぼ・う」の語頭の≪b≫の音変化の正体はどうなっているのでしょうか。 そのまえに、辞書ではどうなのでしょう。『古語辞典」(角川版)をみると次のようです。
古語自体が、もとのかたちの「追う」をすでに音変化させた、「ぼう」にしています。「追いまくる」が「ぼいまくる」(o→b)になっているのです。o から b への音変化は、かなり古い時代にあったものといえるのかも知れません。ただ、「ぼ・う」という語は『古語辞典』には(「旺文社」「角川」ともに)ありませんでした。 それでは、天下の『広辞苑』ではどうでしょうか。
「ぼう」も「ぼい……」も辞書にはでている語ですから、いちがいに方言とは言い切れないのではないでしょうか。でも、もう一歩ふみこんで、「出身を古語とする」といったほどの意味づけがあったりしたら、辞書利用者にはたすかるのかも知れません。 さて、「お・う」「ぼ・う」の語頭の≪o≫→≪b≫への音変化の問題が残っていました。本題というところです。 言語学者でもないわたしが、こんなことをいうのは正気の沙汰ではないのですが、私見・試見というほどの意味で考えを述べてみます。 説明しやすいよう、ちょっと、「ぼ・う」から離れて、次の例から見てみます。
これは、「打ち」の語頭の≪u≫の音が、「ぶち…」の例のように、どれもが、≪b≫の音に変化したもので、さきの「追う」での≪o≫→≪b≫への変化と同一です。≪o≫も≪u≫も、どちらも母音で、くちびるを少しつぼめて発音します。それこそまったくの私見ということになるのですが、≪o≫も≪u≫も古代の人達の発音は≪wo≫≪wu≫ のような、くちびるをつかった半母音での発音でなかったかと考えるのです。このくちびるをつかった≪wo≫≪wu≫の発音は、同じくちびるの破裂音≪bo≫≪bu>とたいへん近い発音だということがわかります。この横手で、古代の発音ののこされている例があります。金沢の柵の南、古趾として有名な「蛭藻沼」があります。ふつう、「ひるもぬま」と発音しますが、地元の人達は違います。「びるもぬま」と発音しているのです。≪hi≫が≪bi≫に変わっているのです。これこそ、地元の人達が古代の発音をつたえている例のひとつと考えられます。 私見①はこのくらいにして、次の私見②にうつります。 「ぶちこわす」の語頭の≪b≫と、「打ち壊す」の語頭の≪u≫とはくちびるをつかって発音する近い関係にあることは、私見①で述べました。もう一度、並べてみます。
「打ち」もつよい感じをもつ語ですが、いっそう感じ・気持ちをあらげて、強めの発音をするとき、ふつうの母音ではなしに、それにもっとも近い発音、くちびるの破裂音をつかって、語を強めます。くちびるの破裂音をとった音変化の正体は、そこにあったのだといえましょう。 「ぼいっこ」のもともとの形は、「追いっこ」かと思われますが、はっきりはしません。この場合も、遊びに対する心の躍動・期待・喜びそのものが、ひびきの強めをもつ、くちびるの破裂音を借りて、心のかたちそのものを音のかたちにしたものでしょう。音のかたちで心のかたちを……ともいえるでしょう。 なお、「ぼいだす」の≪い≫の脱落(ぬけおち)したのが、方言「ぼだす」です。 また、「ぼこす」もあります。「ぶちこわす→ぶっこわす」の語頭の音のつよめをもうひとつ変えたのが「ぼこす」で、やゝ控え目なおだやかなつよめにしたのではないかと考えますが、かんじんの音変化の正体は今ひとつはっきりしません。 「うちなぐる」をもとにした、「ぶんなぐる」からの方言「ぶなぐる」があります。その語頭の音のつよめをいっそうおだやかにした「ぼなぐる」もあって、いかにも横手らしいおだやかなつよめには、ほほえましさを感じさせられます。 |
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