五、平鹿方言考(細谷則理著)を歩く(3-5) 平鹿方言考を読む |
第九章は「接続詞」の考察。 ここでも文語「故に」からの転訛の例から始まりますが、以下簡単に、もとの語と、その方言とを対比させてわかりやすくしたのが次の表です。 |
(もとのかたち) | (その方言のかたち) | |||
○ | 故に | ⇒ | エャンテ − ハンテ | |
○ | 然らば | ⇒ | スタラ(「ば」の抜け落ち) | |
○ | そうであらば | ⇒ | ソダラ → フダラ | |
⇒ | (スタラバ・ソダラバ・フンダラバ) | |||
⇒ | セバ | |||
○ | 然れども | ⇒ | スタドモ・ソダドモ | |
○ | さりながら | |||
・ | そうであるか | ⇒ | ソーダガ | |
○ | さにさりながら | |||
・ | それはそうであるが | ⇒ | ソレァーソーダガ | |
・ | それはそうであれども | ⇒ | ソレァーソーダドモ | |
○ | それ故に | ⇒ | ソンダカラ | |
○ | すると | ⇒ | ユード |
現代のわたしらには、もう理解できないものもみられるのですが、なんとか理解できるものをいくつか取り上げてみたものです。 | |
「それ故に」をもとにした方言「ソンダカラ」を例示していますが、横手地方ではもうひとつ、「ソダエンテ」「ンダエンテ」があります。いまではこのかたちもあまり使われず、「ソンダガラ」「ンダガラ」が多く使われるようになっています。 いくつかの転認をくぐりながら 「ンダガラ」のかたちになったわけです。そのもともとのかたちが、「それ故に」の文語であったことを考察しているわけです。 もうひとつ。いま、「然らば」とつかうことはないのですが、ここでも「ば」の脱け落ちで、「スタラ」(シタラ)のかたちは日常よく使われます。さらに「セバ」への転訛もあとづけています。 この「セバ」で思いつくことがあります。子どもの手まり唄のなかに、「セバさ…センバ山にはタヌキがおってさ」のあったことを思い出します。「然らばサ」では子どもの唄にはなりません。「セバさ」がよく似合います。横手だけの方言ではなかったこともわかるというものです。 こうみてくると、接続詞にみられる方言のもともとのかたちは、その多くは文語(あるいは古語)にあったことがよくわかります。方言のかたちが、突然に生まれ出たものでなく、その多くを文語、また古語にみられることを『平鹿方言考』はするどく解明しているといえましょう。しかも、明治年代に「独学力行」、これだけの方言研究の実績には、ただただおどろかされるばかりです。方言研究の、まさに金字塔のひとつといえま しょう。 |
外部リンク |
Copyright (C) since 2005, "riok.net" all rights reserved |