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五、平鹿方言考(細谷則理著)を歩く

(3-3) 平鹿方言考を読む
  <第五章> 助動詞


 
<第一〜三節> (略)
<第四節> 指定

なり

なりは多くダといふて、柔な物、愚な人、などの如く、ナといふことは稀なり。なりをダといふは、ナもダも同じく舌頭音なれば、ナのダに転じ、りの略したるものなるべし。

「勉強することならば」「運動することならば」の「ことならば」をゴタラ、或いはゴッタラといふ。

例、明日だば行ぐ(明日ナラバ行カン)
休むごたら(休ムゴトナラバ)休め
達者だ(ナル)人だ(ナリ)

<第五節> 推量

らん

べし 「らん」も「べし」も共に、「べ」又は「べー」とのみいふ。

例、一郎も来るべ(来べシ)
寒いべー(寒カラン、寒カルベシ)
読むべが(読ムベキカ)
(*注⑩)  


*注⑩ <助動詞> 第四節 ≪指定≫ での「なり」を方言では「ダ」ということの音声的考察。

「なり」の「ナ」も、また、「ダ」も音声としては「同じ舌頭音なれば」と、発音上の「舌さき」でつく る「n(舌さき.の鼻音)」、「d(舌さきのはれつ音)」との「舌さき」でつくられる共通点をあげています。

鼻音からはれつ音への音変化のカギを推察。さらに、「リ」(舌さきのはじき音)の省略で、「なり」が方言では「ダ」と発音されることを考察。

用例もわかりやすい。

「柔な物」「愚な人」などは、「柔ダ…」「愚かダ…」

と明解。このほかに、

「やばんな男」(やばんダ 男)
「臆病なしまうま」(臆病ダ しまうま)
「のどかな日ざし」(のどかダ 日ぎし)
「ゆるやかな流れ」(ゆるやかダ 流れ)
「平和なくらし」(平和ダ くらし)

これらの語のなかの「な」は、方言ではみな「ダ」と発音されます。

もうひとつ、「ゴタラ」「ゴッタラ」の考察。「ゴタラ」「ゴッタラ」という方言のもともとのかたちを、文語の「…ことならば」と解明。要約すると次のよう。

・ 明日ならば行かん ⇒ 明日ダバ行グ
・ 休むことならば ⇒ 休むゴタラ休メ.

次の「らん」「べし」 <第五節 推量> も同じ。

・ 一郎も来べし ⇒ 一郎も来ルべ
・ 寒からん(寒かるべし) ⇒ 寒いべー

この例も、方言のもともとのかたちを古語にまでさかのぼっての考察です。

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