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三、草・木などの名前にみられる方言

(4) いわしばな (たにうつぎ)

「五月山(さつきやま) 卵の花月夜 ほととぎす 聞けども飽かず まだ鳴かぬかも」
(『万葉集』巻十)

と詠まれるのがウノハナです。『薬草カラー図鑑』では≪ウツギ≫の項に、この花をあげています。

ウツギ(ユキノシタ科)
「……各地に野生する落葉低木で5〜6月ころ、雪のように白い小花をつける。幹の中が空ろになっているので、空ろ木よりウツギになったという。ウノハナは、ウツギのツギが省略されたという説もある。古代人は、ウツギの幹をヒノキで発火していたのではないかという説もあるほど、幹の外側はかたい。…(略)…」

なかなか、うがった解説といえます。ユキノシタ科であり、「雪のように白い小花をつける」というウノハナの清楚な姿を、よく伝えます。

ところで、『秋田方言』では

いわすばな(平)はこねうつぎ。

の一例のみ。用例に示される「はこねうつぎ」はどうもあやしい。ふつう、タニウツギを指すとされるのですから、その両方を『広辞苑』で確認すると次のようです。

はこねうつぎ  スイカズラ科の落葉低木。
各地の海岸に自生。樹高2〜5メートル。太い髓がある。初夏、梢上や葉腋に多数の筒状花をつけ、花は初め白色、後に紅色。庭樹とする。
たにうつぎ(谷空木)  スイカズラ科の落葉低木。
本州と北海道の日本海側山地に生える。高さ2〜3メートルで枝は淡褐色。長卵形の葉は短い柄で対生し、質はややざらつき、裏面には白毛が密生。初夏に葉腋に紅色でラッパ形の花を数個ずつつける。

横手・平鹿でいう「いわしばな」は、どうみても <たにうつぎ> です。

気になるのは、≪ウノハナ≫はユキノシタ科、≪はこねうつぎ≫も≪(たにうつぎ≫もスイカズラ科というのはどうしたものでしょう。気になるところです。

『山内村史』の〔植物〕の項では次のようです。

<ユキノシタ科>
ウツギの葉はザラザラして、蚕の繭の手繰りの口出しに使われた。木部は堅く建具の木釘の原料とされた。ノリウツギは、紙すきの糊をとったことからの名称という。…(略)…
<スイカズラ科>
…タニウツギ(ガザ・ガザキ・イワシバナ)は薪柴や木釘の原料、枝葉は苗代の「カッチギ」、葉はトイレットペーパーの代用となった。イワシの名称からか、花は仏様にあげないとされた…(略)…

≪ウノハナ≫談義はひとまずおくとして、≪タニウツギ≫は <スイカズラ科> であることはまちがいなしです。『同書』の生活に即した考察のふかさはさすがです。

ところで、『秋田方言辞典』では、≪いわしばな≫の項に、ウツギの両方をあげて考察しています。(要点のみ)

いわしばな
(1)たにうつぎ(谷卯木)。
(2)はこねうつぎ(箱根卯木)。
〔考〕……イワシバナ(鰯花)というのは、イワシのとれる時季に咲くからの名という。イワイバナの名の影響からか、この花は生臭いといって仏前に供えない風習がある。この葉は救荒食物の一つとして利用されたもので、石川理紀之助著『草木谷山居成蹟』(明治28)にくわしいという。平鹿ではハコネウツギをも <イワシバナ> という。→がざ

解説の終わりに、[→がざ]がみえます。そういえば『山内村史』の <タニウツギ> の項にも[ガザ]がありました。おやっと思い、『秋田方言』をさがしてみてみると、

がさ(平)たにうつぎ。

この一例がみえます。『秋田方言辞典』では、「ガンガ」「ガサ」「ガンザノキ」…の方言分布を記述、≪タニウツギ≫・≪ハコネウツギ≫の別名としているようです。そういえば、どこかで聞いたことのあるような気もするのですが、横手ではあまり聞かれない方言です。郡部の方言なのかも知れません。

少し、歩き疲れました。終わりになりますが、「いわしばな」の「いわし」がどうも気になってしかたありません。『広辞苑』をひくと、「鰯(いわし)は秋が旬とされ」とあって、花の時季とあいません。となりにある“いわし鯨”の記述のなかに「…春、日本近海に来て、イワシと共に回遊し…」とあるので、この“春”の時季をいうのだろうと納得したのですがどうでしょうか。

わらび採りのころ、山に入るとピンクがかったこの花が出迎えてくれます。山菜の季節到来を歌うかのように。山ふじの花も咲きますが、道にあふれ、山いっぱいに咲くイワシバナの景観はみごとなものです。


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